怒りと向き合うワークブック

特定の対象への許せない感情を客観視するための紙での書き出しワーク

Tags: 許せない感情, 客観視, 書き出しワーク, 感情整理

許せない怒りや悲しみは、しばしば特定の誰か、あるいは過去の出来事といった対象に向けられるものです。こうした感情は、その対象に囚われてしまうことで、なかなか手放すことが難しくなります。心の中に感情が渦巻き、その対象を考えるたびに苦しさが募ることもあるでしょう。

このような状態から抜け出すための一つの有効な方法が、「感情を客観視すること」です。感情を客観視するとは、その感情の中にどっぷり浸かるのではなく、少し距離を置いて、まるで第三者の視点から眺めるように自分の感情を捉えることです。これにより、感情に圧倒されにくくなり、状況や自分自身の心をより冷静に見つめ直すことができるようになります。

ここでは、紙と筆記用具を使って、特定の対象に向けられた許せない感情を客観視するための具体的な書き出しワークをご紹介します。デジタル操作が苦手な方でも、ご自身のペースで安心して取り組んでいただけます。

客観視のための書き出しワークの目的

このワークは、あなたが抱える特定の対象への許せない感情を、以下の点から整理し、客観的に捉えることを目的としています。

感情そのものを「なくす」ことではなく、感情との付き合い方を変えるための一歩となるでしょう。

ワークに取り組む準備

客観視のための書き出しワークの手順

以下の手順で、紙に書き出しを進めていきます。形式は自由ですが、書き出しやすいように線を引いて欄を作るなど工夫しても構いません。

ステップ1:感情の対象と状況を特定する

まず、あなたが許せない感情を抱いている「特定の対象」(人物、出来事、特定の状況など)を明確にします。そして、その感情が特に強く湧き上がるのはどのような「状況」かを具体的に書き出します。

紙に以下のように書き出してみましょう。

ステップ2:感情が発生した際の「事実」を書き出す

ステップ1で特定した状況について、あなたの感情や解釈を含めずに、「事実」として何が起こったかを書き出します。これは、まるで監視カメラが捉えた映像のように、客観的な情報のみを記述するイメージです。誰が、いつ、どこで、何を言ったか、何をしたか、といった、確認可能な客観的事実に焦点を当てます。

紙に以下のように書き出してみましょう。

ステップ3:その事実に対する「あなたの感情」を書き出す

ステップ2で書き出した客観的な事実に対して、その時あなたがどのように感じたかを具体的に書き出します。怒り、悲しみ、失望、悔しさなど、湧き上がってきた感情を正直に、率直に表現します。感情に良い悪いはないので、安心してそのまま書き出してください。

紙に以下のように書き出してみましょう。

ステップ4:感情の背景にある「あなたの思考・解釈」を書き出す

ステップ3で書き出した感情が、どのような考えや解釈から生まれたのかを書き出します。同じ事実を見ても、人によって感じる感情は異なります。それは、その事実をどう受け止め、どう解釈するかによって変わるからです。あなたの感情を生み出した、その事実に対する「あなたの見方」を明らかにします。

紙に以下のように書き出してみましょう。

ステップ5:事実と感情・思考を切り離して眺める

ステップ2で書き出した「事実」と、ステップ3、4で書き出した「あなたの感情や思考・解釈」を並べて眺めます。

ここで重要なのは、「〇〇さんがそう言った」という事実と、「それを聞いてあなたがどう解釈し、どう感じたか」は、切り離して考えられる、ということです。〇〇さんの言葉は事実ですが、それが「あなたを馬鹿にする意図であったか」はあなたの解釈かもしれません。そして、その解釈に基づいて「傷ついた」「怒りを感じた」のはあなたの感情です。

このワークを通じて、あなたは自分が抱く強い感情が、特定の「事実」そのものから直接生まれるのではなく、「事実に対するあなたの解釈や思考」を経て生まれることを理解し始めます。これにより、感情そのものから一歩距離を置き、より客観的に状況を捉えることができるようになります。

紙の上で、事実の欄と、感情・思考の欄を見比べながら、しばらく静かに眺めてみましょう。

ワークに取り組む上での心構えと注意点

このワークから得られること

この書き出しワークを通して、あなたは許せない感情に囚われている状態から、その感情を少し距離を置いて眺める「客観視」の視点を養うことができます。事実と感情・思考を区別する練習は、感情の波にのまれそうになったときに、冷静さを保つ助けとなります。

感情を客観視できるようになると、その感情が生まれるパターンに気づいたり、異なる視点から状況を捉え直したりすることが可能になります。これは、あなたが感情に振り回されるのではなく、感情を理解し、適切に対処していくための大切な一歩となるでしょう。

許せない感情と向き合うことは、決して容易なことではありません。しかし、紙という安全なツールを使って、ご自身の内面に静かに耳を傾ける時間を持つことは、必ずあなたの心の平穏につながるはずです。ご自身のペースで、焦らず取り組んでみてください。