許せない感情の波にのまれないための紙での書き出しワーク
はじめに:感情の波と向き合う難しさ
時に、心に溜まった許せない感情や悲しみが、まるで波のように突然押し寄せてくることがあります。過去の出来事を思い出したり、特定の状況に触れたりしたとき、抑え込んでいたはずの感情が一気に溢れ出し、その強さに圧倒されてしまう経験があるかもしれません。
このような感情の波にのまれてしまうと、冷静さを失い、心身ともに疲弊してしまうことがあります。一人で静かに過ごしたいけれど、どうすればこの強い感情と向き合えるのか分からない、誰かに話すのも難しいと感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、許せない感情が波のように押し寄せてきたときに、ご自身の力でその波をやり過ごし、心を落ち着けるための一つの方法をご紹介します。それは、紙と筆記用具を使った「書き出しワーク」です。デジタル操作に不慣れな方でも、手軽に取り組めるように、具体的な手順とポイントを丁寧にご説明します。
感情の波とは
ここで言う「感情の波」とは、特定の感情(怒り、悲しみ、後悔など)が急に強くなり、ピークに達し、そして時間とともに落ち着いていく一連の流れを指します。この波は、きっかけがある場合もあれば、特に思い当たる理由なく突然やってくることもあります。
感情の波にのまれるとは、その強い感情と自分自身が一体化してしまい、「自分は怒りそのものだ」「この悲しみは永遠に続く」と感じてしまう状態です。しかし、感情は常に変化するものであり、波のように必ずピークがあり、そして引いていきます。この性質を理解することが、感情の波と向き合う第一歩となります。
感情の波にのまれないための書き出しワーク
このワークの目的は、感情の波を感じた時に、ご自身の内側で何が起こっているのかを紙に書き出すことで、感情と自分自身との間に適度な距離を作り、客観的な視点を取り戻すことです。
準備するもの
- 無地のノートや紙数枚
- お好みの筆記用具(ペン、鉛筆など)
- 静かで落ち着ける場所
ワークの手順
感情の波を感じ始めたら、以下の手順で書き出しに取り組んでみてください。
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今、感じていること、考えていることをそのまま書き出す
- 感情の波が最も強く感じられるときに、頭の中に浮かんだこと、体で感じていること(胸が締め付けられる、息が苦しいなど)、心の中で湧き上がる感情(怒り、悲しみ、不安など)を、良い悪いの判断をせず、文法や誤字脱字も気にせずに、思いつくままに書き出します。
- これは「感情の洪水」を紙の上に流し出すイメージです。「とにかくつらい」「どうしてこうなるんだ」「あの時ああしていれば」など、心の中で繰り返されている言葉を、そのまま紙に移してみましょう。
- 箇条書きでも文章でも構いません。手が止まったら、「何も出てこない」と書くのも良いでしょう。
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「感情の波」を意識して書き出す
- 感情そのものに焦点を当てるのではなく、その感情が「波」であることを意識して書き出してみます。
- 例えば、以下のような項目について書き出してみましょう。
- 感情の波を感じ始めたのはいつ、どんな時でしたか?
- 今の感情の波の強さは、1から10段階で言うとどのくらいでしょうか? (例:今、8くらいの怒りを感じている)
- その感情は、体のどのあたりで一番強く感じられますか? (例:胃が重い、肩が凝る)
- 感情の波は、時間とともに変化していますか? もし変化しているなら、どのように変化していますか? (例:さっきより少し落ち着いてきた気がする、波が大きくなったり小さくなったりしている)
- この感情の波は、過去にも経験したことがありますか?
- このように、感情を「自分自身」ではなく「波」として捉え、その性質や変化を観察するように書き出すことで、感情から少し距離を置く練習になります。
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波が落ち着いてきたら、気づきや自分への言葉を書き出す
- 感情の波のピークが過ぎ、少し落ち着いてきたと感じられたら、ワークの振り返りをしてみましょう。
- この波を乗り越えてみて、何か気づいたことはありますか? (例:波は必ず過ぎていくものだと感じた、書き出すと少し楽になる)
- 今の自分に、かけてあげたい言葉はありますか? (例:よく頑張ったね、大丈夫だよ)
- 次に感情の波が来た時に試してみたいことはありますか?
ワークのポイント
- 完璧を目指さないこと: 上手に書こう、正確に書こうと考えすぎないでください。大切なのは、感情を紙の上に「出す」という行為そのものです。
- 判断や評価をしないこと: 書き出した内容に対して、良い悪いの判断や、自分を責めるような評価はしないようにします。ただ、そのままを認めます。
- 定期的に行う必要はないこと: このワークは、感情の波が押し寄せてきた時など、必要な時に取り組むことが有効です。毎日行わなければならない、といった義務感を持つ必要はありません。
- 書き出したものは誰かに見せる必要はないこと: あなただけの、あなたのためのものです。書き出した後、見返すのも良いですし、もし辛ければ破り捨てたり燃やしたりして処分しても構いません。
ワークから期待できる効果
この書き出しワークに取り組むことで、以下のような効果が期待できます。
- 感情の客観視: 感情を紙の上に書き出すことで、感情と自分自身との間にスペースが生まれ、感情を少し離れたところから見られるようになります。
- 冷静さの回復: 感情のピーク時に、衝動的な行動に出ることを抑え、冷静さを取り戻す手助けとなります。
- 感情の許容: 感情の波を「乗り越えるべき敵」ではなく、「過ぎ去っていくもの」として捉えることで、感情を受け入れることが少しずつ楽になります。
- 自己理解の深化: 自分の感情のパターンや、どのような時に波が押し寄せやすいのかといった気づきが得られることがあります。
ワークに取り組む上での心構えと注意点
- ご自身のペースで: 感情と向き合うことはエネルギーを使います。疲れたら無理せず中断し、休息を取りましょう。
- 安全な環境で: 誰にも邪魔されず、安心して取り組める場所を選んでください。
- 感情が非常に辛い場合: このワークは自己探求の一助となりますが、激しい感情や心身の不調が続く場合は、一人で抱え込まず、専門家(医師やカウンセラーなど)に相談することも大切な選択肢です。
おわりに
許せない感情の波は、時に心をかき乱し、大きな苦痛を伴うものです。しかし、その波にのまれず、ご自身の力で乗り越えるための方法を身につけることは可能です。
今回ご紹介した書き出しワークは、紙とペンさえあれば、いつでもどこでも取り組めるシンプルな方法です。完璧に行うことよりも、まずは一歩踏み出し、ご自身の感情にそっと寄り添う時間を持つことから始めてみてください。
このワークが、あなたが感情の波を乗り越え、穏やかな心を取り戻すための一助となれば幸いです。