許せない感情を通して自分の大切にしている価値観を知る紙での書き出しワーク
許せない感情は、あなた自身の「価値観」を映し出す鏡
過去の出来事や特定の誰かに対して、「どうしても許せない」という感情を抱き続けているかもしれません。その怒りや悲しみは、時に私たちを苦しめ、心を重くします。一人でその感情と向き合い、整理することは容易ではありません。
しかし、心理学的な視点から見ると、強い怒りや悲しみ、特に「許せない」という感情は、私たちが普段意識していない、あるいは抑圧している「自分にとって非常に大切なもの」が侵害されたときに生まれることが多いと言われています。つまり、許せないという感情は、あなたが何を大切にしているのか、どのような価値観を重んじているのかを教えてくれる、ある種のサインなのです。
このサインに気づき、自分の内側にある価値観を理解することは、感情を整理し、なぜ自分がこれほどまでに傷ついたり怒ったりするのかを腑に落とす上で、非常に役立ちます。また、自分の価値観を知ることは、今後の人生でどのような選択をすることが自分にとって大切なのかを見極める指針にもなります。
このワークは、紙と筆記用具さえあれば、ご自身のペースで静かに取り組むことができます。誰かに話すのが苦手な方や、デジタル機器の操作に不慣れな方でも、安心して進められるよう設計されています。
ワークを始める前に
リラックスできる静かな場所で、誰にも邪魔されない時間を見つけましょう。ノートや紙を数枚と、書きやすいペンを用意してください。 ワーク中は、出てくるどんな感情や考えも否定せず、正直に書き出すことを心がけてください。これは誰かに見せるためのものではなく、ご自身のための時間です。
紙での書き出しワーク:許せない感情から価値観を見つける
以下のステップに沿って、紙に書き出してみましょう。箇条書きでも、文章でも、思いつくままに書いて構いません。
ステップ1:許せないと感じる出来事や対象を具体的に書き出す
まず、今あなたが抱えている「許せない」という感情に焦点を当てます。それは、過去の特定の出来事かもしれませんし、特定の誰かの言動かもしれません。あるいは、状況や自分自身に対して感じていることかもしれません。
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書き出すこと: あなたが「許せない」と感じている出来事や対象を、できるだけ具体的に書き出してください。複数ある場合は、一つずつ取り組むか、最も強い感情を伴うものから始めてみましょう。
- 例:
- 数年前に友人Aに言われた〇〇という言葉
- 仕事で上司Bから受けた不当な評価
- 家族との約束が守られなかったこと
- 過去の自分の失敗や選択
- 例:
(紙に書き出すスペース)
ステップ2:その出来事や対象の「何」が許せないのか、具体的な状況や言動を掘り下げる
ステップ1で書き出したことについて、具体的に何が、どのように「許せない」と感じるのかを詳細に書き出します。単に「友人の言葉」ではなく、「友人が〇〇という状況で、私に対して△△と言ったこと」のように、描写するように書いてみましょう。
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書き出すこと: ステップ1で選んだ出来事や対象について、具体的にどのような状況で、何が起こり、相手はどのような言動を取り、あなたはそれをどう感じたのかを詳しく書き出します。客観的な事実だけでなく、その時のあなたの感情も正直に書き添えましょう。
- 例:
- 仕事で重要なプレゼンを終えた直後、上司Bが皆の前で「今回の結果は運が良かっただけだね」と言った。その時、私は自分の努力を否定されたように感じ、非常に侮辱された気持ちになった。
- 子供の頃、楽しみにしていた家族旅行が、理由も告げられずに急にキャンセルされた。期待していた分、深く傷つき、裏切られたように感じた。
- 例:
(紙に書き出すスペース)
ステップ3:「なぜそれが許せないのか」を深く問い直し、根底にある考えや期待を探る
ステップ2で掘り下げた具体的な状況や言動に対して、「なぜ、私はそれが許せないのだろう?」と繰り返し自問します。この問いかけは、あなたの内面にある、普段気づかないような考えや、相手や状況に対する期待、あるいは自分自身に対する信念を明らかにするのに役立ちます。
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書き出すこと: ステップ2で書き出したそれぞれの具体的な点に対し、「なぜそれが許せないのか?」と問いかけ、出てくる答えをすべて書き出します。答えに対し、さらに「なぜそう思うのだろう?」と掘り下げていくことも有効です。
- 例:
- なぜ上司の発言が許せないのだろう? → 自分の努力を認めて欲しかったから。
- なぜ努力を認めて欲しかったのだろう? → 努力は報われるべきだと思っているから。/ 自分の能力を正当に評価して欲しかったから。/ 人前で貶められるのは嫌だから。/ 上司は部下の努力を尊重すべきだと思っているから。
- なぜ家族に裏切られたように感じたのだろう? → 家族は約束を守るべきだと思っているから。/ 期待していたこと、楽しみにしていた気持ちを軽んじられたと感じたから。/ 自分の気持ちよりも他のことが優先されたように感じたから。
- 例:
(紙に書き出すスペース)
ステップ4:ステップ3から見えてきた「自分が大切にしていること(価値観)」を言語化する
ステップ3で深く掘り下げていくと、「〜であるべきだ」「〜を大切にしている」「〜は許せない」といった、あなたの根幹にある考えや信念、期待が見えてきます。これらは、あなたがどのような価値観を重視して生きているのかを示唆しています。
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書き出すこと: ステップ3で見えてきた考えや信念を整理し、「自分が大切にしていること」「自分が人生で重んじている価値観」を言葉にしてみましょう。
- 例:
- 努力は正当に評価されるべきだという考え → 公正さ、正当な評価、努力の尊重
- 人前で侮辱されるのは嫌だという気持ち → 尊厳、敬意、安全な環境
- 家族は約束を守るべきだという考え → 信頼、約束の順守、誠実さ
- 自分の気持ちが軽んじられたと感じたこと → 自分の感情の尊重、大切にされること
このように、あなたが大切にしている価値観として、「公正さ」「信頼」「敬意」「誠実さ」「自分の感情の尊重」「努力」「安全」「尊厳」などが浮かび上がってくるかもしれません。
- 例:
(紙に書き出すスペース)
ステップ5:このワークを通して気づいたことをまとめる
最後に、これまでのステップを振り返り、気づいたことや感じたことを自由に書き出してください。ワークを始める前と後で、感情や考えに何か変化があったかもしれません。
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書き出すこと: このワーク全体を通しての気づき、感じたこと、そして「許せない」と感じた感情が、あなたのどのような価値観と結びついているのか、それらをどのように捉え直せるかをまとめます。
- 例:
- あの出来事を許せなかったのは、自分が〇〇という価値観を非常に大切にしているからだと分かった。
- 自分の価値観が明確になったことで、なぜあれほどまでに苦しかったのか、少し理解できた気がする。
- 相手の言動は許せないままだが、それが自分の弱さや欠点ではなく、大切にしている価値観と結びついていることが分かっただけでも、少し心が軽くなった。
- 今後は、自分の〇〇という価値観を大切にする行動を増やしていきたい。
- 例:
(紙に書き出すスペース)
ワークに取り組む上でのポイントと注意点
- 正直に書く: 誰かに見せるものではありません。心の中で思っていること、感じていることをそのまま書き出しましょう。
- 批判しない: どんな考えや感情が出てきても、「こんなことを考えてしまうなんて」と自分を批判しないでください。ただ、ありのままを受け止めます。
- 休憩する: 感情的に辛くなった場合は、無理せず休憩してください。一度にすべてを終わらせる必要はありません。日を分けて取り組んでも良いのです。
- 効果の期待: このワークは、許せない感情を「許す」ことを強制するものではありません。感情の背景にある自分の価値観を理解し、自己理解を深めることに焦点を当てています。これにより、感情の捉え方が変わり、少しずつ心が整理されていく可能性があります。
- 専門家のサポート: あまりにも辛い感情に圧倒されたり、日常生活に支障が出ている場合は、一人で抱え込まず、専門家(心理士やカウンセラーなど)に相談することも検討してください。このワークは自己理解のツールですが、全ての問題を解決するものではありません。
ワークを終えて
許せない感情を通して自分の価値観を知ることは、時に痛みを伴うかもしれませんが、それは自分自身を深く理解するための大切な一歩です。あなたの許せないという感情は、あなたの弱さではなく、あなたが何を大切にし、どのような人間であろうとしているのかを示す、力強いメッセージなのです。
このワークで明らかになったあなたの価値観は、今後の人生の選択や、人間関係を築いていく上での羅針盤となるでしょう。すぐには感情が消えなくても、自分の内側を理解したことで、少しずつ心の状態が変わってくるかもしれません。
このワークが、あなたがご自身の感情と向き合い、より穏やかな心で日々を過ごすための一助となれば幸いです。