許せない感情による繰り返しのパターンに気づくための紙での書き出しワーク
はじめに
私たちは生きていく中で、様々な出来事に遭遇し、喜びや楽しみだけでなく、怒りや悲しみといった複雑な感情を抱くことがあります。特に「許せない」と感じるほどの強い感情は、長い間心に残り、私たちの考え方や行動に影響を与え続けることがあります。
時として、過去のつらい出来事や、それに伴う「許せない」という感情が、現在の人間関係や状況においても、どこか似たようなパターンを繰り返しているように感じられることがあります。なぜかいつも同じような問題に直面してしまう、特定の人に対して同じように反応してしまう、といった経験はないでしょうか。
このような繰り返しのパターンに気づくことは、感情に振り回されるのではなく、自分自身の心と向き合い、変化のための第一歩を踏み出すために非常に重要です。本記事では、この「許せない感情による繰り返しのパターン」に気づき、整理するための具体的な書き出しワークをご紹介します。紙とペンがあれば、どなたでもご自身のペースで安心して取り組むことができます。
なぜ「パターン」に気づくことが大切なのか
許せない感情は、その出来事自体だけでなく、その時に抱いた思考や信念、そしてそれに基づく行動と結びついています。これらの要素が複合的に影響し合い、無意識のうちに似たような状況を引き寄せたり、同じような反応をしてしまったりすることがあります。
この「パターン」に気づかないままだと、原因が分からないまま同じ困難を繰り返し経験し、「なぜ自分ばかり」とさらに苦しんでしまう可能性があります。パターンを認識することは、まるで地図を手に入れるようなものです。自分がどこにいるのか、なぜ同じ場所に戻ってきてしまうのかが分かれば、そこから抜け出すための道筋を見つけやすくなります。
このワークを通じて、ご自身の感情や行動の背景にあるパターンを客観的に捉え、より建設的な方法で感情と向き合うための手がかりを見つけていきましょう。
紙でできる書き出しワーク:繰り返しのパターンを見つける
ここでは、紙と筆記用具を使って、ご自身の感情が引き起こす繰り返しのパターンに気づくための具体的なワークをご紹介します。以下の手順に沿って、ゆっくりと進めてみてください。
準備するもの
- A4サイズ程度の紙 数枚
- 書きやすい筆記用具(ペンなど)
- 静かで落ち着ける場所
ワークの手順
ステップ1:感情が強く動いた出来事を書き出す
まずは、過去や現在において、「許せない」「つらい」「悲しい」など、特に感情が強く動いた出来事をいくつか思い出してみましょう。小さな出来事でも構いません。特に、どこか似ている、繰り返しているように感じる出来事があれば、それを選んでみてください。
1枚目の紙に、それぞれの出来事について、以下の点を書き出していきます。項目ごとに箇条書きにしたり、紙を区切って書き出したりすると整理しやすいでしょう。
- 出来事の概要: いつ頃、どこで、誰との間に、何が起きたか。できるだけ具体的に描写してみましょう。
- 例: 「3年前、職場で。上司から、私の成果を認められず、不当に評価されたと感じた。」
- 例: 「子供の頃、親に自分の気持ちを理解してもらえず、一方的に決めつけられたと感じた。」
- 例: 「最近、友人との会話で、自分の意見を軽く扱われたように感じた。」
- その時の感情: その出来事に対して、あなたはどのような感情を抱きましたか。「怒り」「悲しみ」「悔しさ」「無力感」「孤独」など、感じたままの言葉で表現してみてください。感情の強さも(例: 「非常に強い怒り」)書き添えても良いでしょう。
- 例: 「激しい怒りと、認められないことへの深い悲しみを感じた。」
- 例: 「とても悲しく、自分が価値のない人間のように感じた。」
- 例: 「無視されたように感じて、イライラした。」
- その時の自分の行動/反応: その出来事に対して、あなたはどのように考え、どのように行動しましたか。心の中で思ったこと、実際に口にしたことや取った行動などを書いてみましょう。
- 例: 「反論しようと思ったが、何も言えなかった。その後、その上司を避けるようになった。」
- 例: 「泣きそうになったが我慢した。もう何を言っても無駄だと諦めた。」
- 例: 「その場では笑顔でごまかしたが、心の中で相手を責めた。しばらく連絡を取るのをやめた。」
少なくとも3つ、できれば5つ程度の出来事について、この書き出しを行ってみましょう。
ステップ2:共通するパターンを見つける
ステップ1で書き出した複数の出来事を読み返してみましょう。そして、そこに共通する点や、繰り返されているパターンがないかを探します。以下の点に注目してみてください。
- 登場人物や関係性の共通点: どのような立場の人物(上司、親、友人、パートナーなど)との間で起こりやすいか。その人物との関係性に共通点はあるか。
- 状況や場所の共通点: どのような場所や状況(職場、家庭、特定の集まりなど)で起こりやすいか。
- 出来事の種類の共通点: どのような種類の出来事(自分の意見を否定される、期待を裏切られる、無視されるなど)が起こりやすいか。
- 自分の感情や反応の共通点: どのような感情(怒り、悲しみ、無力感など)を抱きやすいか。その時、自分がどのような考え方や行動を取りやすいか(黙り込む、避ける、攻撃的になる、諦めるなど)。
共通すると思われるパターンを、別の紙に箇条書きで書き出してみましょう。複数あるかもしれません。
- 例: 「目上の人から、自分の努力を否定されるような状況が多い。」
- 例: 「親しい人に、自分の本音を話そうとしたときに、軽くあしらわれることが多い。」
- 例: 「対立が苦手で、自分の意見を言えずに黙り込んでしまうことが多い。」
- 例: 「傷ついた時に、相手を非難する気持ちが強く湧きやすい。」
ステップ3:パターンが自分に与える影響と気づきを書き出す
ステップ2で見つけたパターンをもう一度見つめてみましょう。そのパターンが、あなたの今の人生や心にどのような影響を与えているかを、率直に書き出してみます。
- パターンによる影響: そのパターンを繰り返すことで、どのような結果になっているか、どのような気持ちになるか。
- 例: 「目上の人との関係を避けるようになり、新しい挑戦を躊躇するようになった。」
- 例: 「親しい人に心を開けなくなり、孤独を感じることが増えた。」
- 例: 「いつも周りに合わせてしまい、自分の本当の望みが分からなくなった。」
- 例: 「怒りの感情に支配されやすく、冷静な判断ができなくなることがある。」
- このワークで気づいたこと: ステップ1とステップ2の書き出しを通して、新たに気づいたことはありますか。意外だったこと、納得できたことなど、どんな小さなことでも構いません。
- 例: 「自分が特定のタイプの状況に非常に敏感に反応することが分かった。」
- 例: 「過去の経験が、今の自分の行動に強く影響していることに気づいた。」
- 例: 「もしかしたら、相手だけでなく、自分自身の考え方にも改善できる点があるかもしれないと思った。」
- これからどうしたいか: このパターンと、それによる影響、そして気づきを踏まえて、あなたは今後、どのように感情や状況と向き合っていきたいと考えますか。すぐに具体的な行動を決める必要はありません。「少し意識を変えてみたい」「同じパターンになったら、一度立ち止まって考えてみたい」といった程度の漠然としたものでも構いません。
- 例: 「同じような状況になったら、すぐに反応するのではなく、一度深呼吸をしてみようと思う。」
- 例: 「自分の意見を言う練習を、小さなことから始めてみたい。」
- 例: 「過去の出来事について、もう少し別の角度から考えてみようと思う。」
ワークに取り組む上での心構えと注意点
- 安全な場所と時間を選ぶ: 誰にも邪魔されず、ご自身の感情に集中できる静かな環境を選びましょう。時間に余裕を持って取り組み、急かされることのないようにします。
- 正直に、 Judgment せずに書く: ここでの書き出しは、誰かに見せるものではありません。良い悪いの Judgment をせず、ご自身の心に浮かんだこと、感じたことをありのままに書き出すことが大切です。
- 感情が揺れる可能性がある: 過去の出来事や許せない感情、繰り返しのパターンと向き合う過程で、感情が一時的に強く揺り動かされることがあります。つらくなったら無理せず中断し、落ち着ける時間を持ちましょう。深呼吸をしたり、好きな飲み物を飲んだり、少し散歩するなど、ご自身を労わることを優先してください。
- 完璧を目指さない: 一度で全てのパターンが明らかになるわけではありません。また、パターンに気づいたからといって、すぐに全てが変わるわけでもありません。このワークは、ご自身の内面を知るための一歩です。定期的に、あるいは同じようなパターンに気づいた時に、繰り返し行ってみても良いでしょう。
ワークの効果と、これから
この書き出しワークを通じて、あなたはご自身の「許せない感情」が、どのような状況や人間関係において現れやすく、そしてそれがどのようなパターンを形成しているのかを知る手がかりを得られたかもしれません。
パターンに気づくことは、感情に無力に流される状態から、「これはいつものパターンかもしれない」と一歩引いて客観視できるようになる第一歩です。客観視することで、感情に任せた衝動的な反応ではなく、自分が本当に望む、より建設的な反応を選択する可能性が生まれます。
このワークは、あくまでご自身の内面を探求するための一つのツールです。すぐに大きな変化を感じられなくても、ご自身が長年抱えてきた感情やパターンに、勇気を持って向き合ったというその事実こそが、大きな一歩です。
もし、一人で向き合うことが難しいと感じたり、感情のパターンが日常生活に大きな支障をきたしている場合は、専門家(心理士やカウンセラーなど)に相談することも検討してみてください。
まとめ
許せない感情が引き起こす繰り返しのパターンに気づくことは、過去に縛られず、より自由な未来を築くための重要なプロセスです。紙に書き出すというシンプルな行為は、複雑に絡み合った感情や思考を整理し、目に見える形にすることで、ご自身を客観的に見つめる助けとなります。
今回ご紹介したワークが、あなたがご自身の感情と優しく、しかし力強く向き合い、パターンを乗り越えていくための一助となれば幸いです。ご自身の内面を探求する旅を、どうぞ大切に進めてください。