許せない感情の根源にある「過去の傷」と向き合う紙での書き出しワーク
許せない感情が問いかける「過去の傷」とは
長く心に残り続ける許せない怒りや悲しみは、時に私たちを苦しめ、前に進むことを難しくさせます。なぜ、特定の出来事や人物に対して、こんなにも強く、許せないという感情を抱き続けてしまうのだろうかと、ご自身に問いかけたことがあるかもしれません。
このような感情は、単に現在の出来事に対する反応であるだけでなく、私たちの過去の体験、特に癒えていない心の傷や満たされなかったニーズに根差していることがあります。現在の出来事が、過去の傷を再び刺激し、当時感じた感情を呼び起こしているのかもしれません。
この深いレベルで感情を理解することは、感情に振り回される状態から、感情を一つのメッセージとして受け止め、自己理解を深めるための一歩となります。この記事では、許せない感情の根源にあるかもしれない「過去の傷」に光を当て、それと向き合うための紙での書き出しワークをご紹介します。
特別な準備は必要ありません。紙とペンがあれば、ご自身のペースで安全に取り組むことができます。
ワークの目的と準備
このワークの目的は、今あなたが抱えている許せない感情と、その感情が引き起こされる背景にある過去の体験や心の傷との繋がりを見つけ出すことです。この繋がりを理解することで、感情への新たな視点が生まれ、癒やしへの道が開かれることがあります。
準備するもの
- 紙(ノートやルーズリーフなど、数枚あると良いでしょう)
- ペン
- 静かで、誰にも邪魔されない落ち着ける場所
- 必要であれば、飲み物やティッシュなども手元に置いてください。
ワークに取り組む上での心構え
- 無理をしない: 強い感情が湧き上がってくる可能性があります。辛くなったら途中で中断したり、休憩を挟んだりしても構いません。ご自身の心身の状態を最優先にしてください。
- 感情に良い悪いはない: どのような感情が湧いてきても、それを否定せず、ただありのままに受け止めてください。
- 答えを探すのではなく、感じたことを書き出す: 正解や完璧な文章を目指す必要はありません。心に浮かんだ言葉や感覚を率直に書き出しましょう。
- 秘密を守る場所で: 誰かに見られる心配のない場所を選び、安心して書き出せるようにしましょう。
紙での書き出しワークの手順
それでは、具体的な書き出しワークの手順です。紙を数枚用意し、それぞれのステップで感じたこと、思い出したことを書き出していきましょう。
ステップ1: 今抱えている「許せない感情」を特定し、書き出す
まず、今あなたが一番向き合いたいと感じている「許せない感情」について具体的に書き出してみましょう。
- 誰に対して、またはどんな出来事に対して、その感情を抱いていますか? 具体的な状況を思い出せる範囲で書き出します。(例: 「Xさんが私の話を遮ったこと」「過去にYさんから言われた言葉」など)
- その時、あなたはどんな感情を感じていますか? 「許せない」という気持ちの他に、怒り、悲しみ、失望、悔しさ、孤独、恐れなど、心に浮かぶ感情を全て書き出してみましょう。一つの感情だけでなく、複数の感情が同時に存在することもあります。
- その感情を感じたとき、体にはどのような感覚がありますか? 胸が締め付けられる、肩が重い、胃が痛む、呼吸が浅いなど、具体的な体の感覚を書き出します。
(紙に書き出す形式の例)
ステップ1:今の許せない感情
- 対象・出来事:
- (例: 職場の同僚Xさんが、私が一生懸命準備した企画について、まるで自分の手柄のように話したこと)
- 感じている感情:
- (例: 許せない、怒り、悔しさ、失望、裏切られた気持ち、無力感)
- 体の感覚:
- (例: 胃がキリキリする、肩や首がこる、顔が熱くなる)
ステップ2: その感情が引き起こす「過去の感覚」を探る
ステップ1で書き出した感情や体の感覚に意識を向けたまま、それが過去のどんな体験や感覚と似ているか、心に浮かぶものを書き出してみましょう。
- 今感じているこの感情や体の感覚は、これまでの人生で他にいつ、どこで感じたことがありますか?
- 特に、子供の頃や若い頃に似たような状況、似たような感情を経験したことはありますか?
- 無理に思い出そうとせず、ふと心に浮かぶ断片的な記憶や感覚があれば、それを書き留めてください。具体的な出来事でなくても、「あの時の嫌な感じ」「誰かに無視された時の気持ち」など、漠然とした感覚でも構いません。
(紙に書き出す形式の例)
ステップ2:過去の感覚
- 今の感情・感覚と似ている過去の体験や感覚:
- (例1: 小学校の時、クラスメイトにからかわれて悔しいと思った気持ち)
- (例2: 親に自分の意見を否定された時、心の中に湧いた悲しさと反発心)
- (例3: 一生懸命やったことを誰にも認めてもらえなかった時の、寂しくて情けない感じ)
- (例4: 体のこのこわばりは、何か我慢している時の感じに似ている気がする)
ステップ3: 過去の体験と現在の感情を結びつける
ステップ2で浮かんだ過去の体験や心の傷と、現在の許せない感情との間に、あなたなりの繋がりを見つけて書き出してみましょう。論理的である必要はありません。心の中で感じられる繋がりを言葉にしてみます。
- ステップ1の出来事で感じた感情は、ステップ2で思い出した過去の体験とどのように関連しているように感じますか?
- 過去の体験で満たされなかったニーズ(例: 認められたい、大切にされたい、安全でいたい、理解されたいなど)が、今回の出来事でも満たされなかったと感じていることはありますか?
- 過去の傷が、今回の出来事に対する感情的な反応を、より強くしたり、複雑にしたりしている可能性について、考えてみましょう。
(紙に書き出す形式の例)
ステップ3:過去と現在の繋がり
- (例1: 同僚Xさんに手柄を取られたことへの悔しさは、小学校の頃に努力を笑われた時の「どうせ自分なんて」という気持ちと繋がっている気がする)
- (例2: 親に否定された時の「自分の気持ちは無価値だ」という感覚が、今回の出来事で再び呼び起こされ、強い無力感になっているのかもしれない)
- (満たされなかったニーズ: 自分の存在や努力を認められたい、尊重されたい)
- (例3: 一生懸命やったのに認められなかった寂しさが、今の裏切られた気持ちの根っこにあるのかもしれない。誰かに大切にされたい、理解されたいという願いがある)
ステップ4: 過去の自分へのメッセージを書き出す
ステップ2や3で触れた、過去に傷ついた自分自身に対して、今のあなたが伝えたい言葉、かけてあげたい言葉、理解してあげたい気持ちなどを書き出してみましょう。
- あの時、傷ついていた過去の自分に、今のあなたなら何と伝えてあげられますか?
- 過去の自分が感じていた感情やニーズを、今のあなたが受け止め、認めてあげるとしたら、どんな言葉になりますか?
- 過去の自分を優しく抱きしめるような気持ちで、メッセージを書き出してみましょう。
(紙に書き出す形式の例)
ステップ4:過去の自分へのメッセージ
- (例1: 小学校の頃の私へ。努力したこと、悔しかった気持ち、全部間違ってないよ。あなたの頑張りはとても尊いものだよ。大丈夫だよ。)
- (例2: 若い頃の私へ。気持ちを否定されて辛かったね。でも、あなたの感じたこと、考えたことには価値があるんだよ。そのままのあなたで良いんだよ。)
- (例3: 過去の私へ。寂しかったね、認められたかったね。その気持ち、今の私はちゃんと分かっているよ。あなたは一人じゃないよ。)
ワークを終えて
このワークは、許せない感情が単なる今の出来事への反応ではなく、過去から続く長い物語の一部である可能性を示唆しています。感情の根源にある「過去の傷」に気づき、それを現在の感情と結びつけて理解することは、感情に振り回されるパターンから抜け出し、より深く自分自身を受け入れるための一歩となります。
過去の傷そのものをすぐに癒やすことは難しいかもしれません。しかし、その存在に気づき、現在の感情との繋がりを理解するだけでも、感情に対する捉え方が変わることがあります。感情が、過去の自分からの「ここに傷があるよ、気づいてほしいな」というメッセージであると捉え直すこともできます。
このワークは一度きりで完了するものではありません。時間を置いて繰り返し行ったり、別の許せない感情について試してみたりするのも良いでしょう。もし、このワークを通じて強い感情に圧倒されたり、一人で抱えきれないと感じたりした場合は、信頼できる友人や家族に話を聞いてもらったり、専門家(カウンセラーやセラピストなど)に相談することも検討してみてください。
ご自身の感情と向き合い、過去の自分を理解しようとするあなたの歩みを、心から応援しています。このワークが、あなたの心の平穏を取り戻すための一助となれば幸いです。