「なぜ私が」と感じる怒りや悲しみを整理する紙での書き出しワーク
はじめに
人生において、「なぜ私がこんな目に遭うのだろう」「自分だけが理不尽な思いをしているのではないか」と感じる出来事に出会うことがあります。そうした時に湧き上がる怒りや悲しみは、非常に強く、心の中に長く留まりやすいものです。誰かに話すことにも抵抗があり、一人で抱え込み、その感情に圧倒されてしまうこともあるかもしれません。
このような「なぜ私が」と感じる感情は、私たちの心と体に大きな負担をかけます。しかし、こうした感情も、適切に向き合うことで、自分自身を理解し、前に進むための大切な機会となり得ます。
この記事では、「なぜ私が」と感じる怒りや悲しみと、紙に書き出して向き合うための具体的なワークをご紹介します。紙と筆記用具があれば、ご自身のペースで安心して取り組むことができます。このワークを通して、感情を整理し、少しでも心が軽くなるお手伝いができれば幸いです。
「なぜ私が」と感じる感情の背景にあるもの
「なぜ私が」という感情は、主に以下のような背景から生まれることが多いと考えられます。
- 公平さや正義感への期待: 自分や他者が公平に扱われるべきだ、という強い信念がある場合、それに反する出来事に対して強い感情が湧き上がります。
- 過去の経験: 過去に同様の理不尽な経験があり、それが癒えていない場合、新たな出来事がその傷を刺激し、感情が増幅されることがあります。
- 自分自身の価値観やルール: 自分の中に「こうあるべきだ」という強い価値観やルールがあり、それが破られたと感じた時に、なぜ自分がこのような状況に置かれるのか理解できず、混乱や怒り、悲しみが生じます。
- コントロールへの欲求: 出来事をコントロールしたい、という無意識の欲求があり、それが叶わない時に、理不尽さを感じやすくなります。
こうした背景を理解することは、感情そのものを解消するわけではありませんが、自分が何に反応しているのかを知る第一歩となります。
紙での書き出しワーク:理不尽な感情を整理する
このワークは、「なぜ私が」と感じる出来事とそれに伴う感情を、一つずつ分解して見つめ直すことを目的としています。紙に書き出すことで、頭の中だけで考えている時よりも、感情や思考が整理され、客観的に捉えやすくなります。
準備するもの:
- 紙(ノートやルーズリーフなど、何でも構いません)
- 筆記用具(ペン、鉛筆など)
- 静かで一人になれる時間と場所
取り組む上での心構え:
- 正直に書く: 誰に見せるものでもありません。心に浮かんだこと、感じたことをそのまま正直に書き出しましょう。良い悪い、正しい間違い、といった判断は一切不要です。
- 自分を責めない: どのような感情を感じていても、それは自然なことです。感情を感じている自分を責めたり、批判したりしないでください。
- 無理はしない: 感情が強く、書くことが辛くなったらいつでも中断して構いません。休憩を挟んだり、別の日に改めて取り組んだりしましょう。
- 批判をしない: 出来事に関わった他者や、自分自身に対して、書いている最中に過度に批判的な言葉を使わないように意識してみましょう。あくまで事実と自分の感情を整理することが目的です。
ワークの手順:
紙を数枚用意し、以下の質問や項目に沿って書き進めてみましょう。一つの項目に書く量に制限はありません。心が赴くままに書き出してください。
ステップ1:出来事を書き出す
まず、「なぜ私が」と感じるきっかけとなった具体的な出来事を、事実だけを書き出します。
- 質問: 何が起こりましたか?いつ、どこで、誰が、何をしましたか?
- 例:「〇月〇日、私が頼んだことと違う方法で物事が進められた。」「約束の時間に相手が来なかった。」「自分が努力したことが正当に評価されなかったように感じた。」
ステップ2:その時感じた感情を書き出す
ステップ1で書き出した出来事に対して、あなたがその時感じた感情を、言葉にして書き出します。単語でも、文章でも構いません。
- 質問: その出来事に対して、あなたはどんな感情を感じましたか?
- 例:「怒り」「悲しみ」「落胆」「裏切り感」「悔しさ」「虚しさ」「混乱」「不安」「腹立たしさ」
ステップ3:「なぜ私が」と感じた思考を書き出す
ステップ2で感じた感情の奥にある、「なぜ私が」と感じる具体的な思考や問いを書き出します。
- 質問: その出来事や感情に対して、「なぜ私がこんな目に」「どうしてこうなるんだ」という形で、頭の中に浮かんだ思考や問いは何でしたか?
- 例:「なぜ私だけがこんなひどい扱いを受けるんだ?」「私が何か悪いことをしたのだろうか?」「どうしてこの人は私の気持ちを分かってくれないんだ?」「公平じゃない」「努力が無駄になった」
ステップ4:ステップ3の思考の背景を探る
ステップ3で書き出した思考は、あなたの内面にある価値観や期待に基づいています。その思考が、どのような考えや信念から来ているのかを探ります。
- 質問: ステップ3で書き出した「なぜ私が」という思考は、あなたが当たり前だと思っていること、こうあるべきだと考えていること、誰かや状況に期待していることと、どのように関係していますか?
- 例:「人は約束を守るべきだ」「努力は報われるべきだ」「私は正当に評価されるべきだ」「周りの人は私の気持ちを理解してくれるはずだ」「自分は大切に扱われるべきだ」
ステップ5:あなたが本来どう扱われたかったかを明確にする
ステップ4で見えてきた期待や価値観に基づき、あなたがその出来事において、本当はどのように扱われたかったのか、どのような状況であれば心が穏やかでいられたのかを書き出します。
- 質問: その出来事が起こった時、あなたは本当はどのように扱われたかったですか?どのような状況を望んでいましたか?
- 例:「私の要望が尊重されてほしかった」「約束通りにしてほしかった」「私の努力が認められてほしかった」「もっと丁寧に話してほしかった」「公平に扱ってほしかった」
ステップ6:今、自分自身に対してできることを書き出す
出来事を変えることはできませんが、その出来事によって傷ついた自分自身に対して、今からできることがあります。ステップ5で明らかになったあなたの望みを、自分自身に与えるとしたら、何ができるかを考えます。
- 質問: 傷ついた自分自身を労うために、どのような言葉をかけられますか?自分自身を大切にするために、これからどのような行動をとれますか?
- 例:「〇〇の件で、あなたは本当に辛かったね。よく耐えました。」(自分への言葉)
- 例:「しばらくその出来事から距離を置く時間を作ろう。」(自分への行動)
- 例:「信頼できる他の誰かに少しだけ話を聞いてもらおうか考える。」(自分への行動)
- 例:「美味しいものを食べる、ゆっくり休むなど、自分を甘やかす時間を作ろう。」(自分への行動)
ワークに取り組んだ後に
このワークは、一度やればすべてが解決する魔法ではありません。しかし、理不尽だと感じた出来事と、それに対する感情、そしてその感情の背景にある自分自身の内面に、丁寧に光を当てる作業です。
書き出した紙を見返してみると、感情の波が少し落ち着き、出来事を以前よりも客観的に捉えられるようになっていることに気づくかもしれません。また、「なぜ私が」という思考が、自分自身の「こうあってほしい」という強い願いや価値観から生まれていること、そしてその願いが満たされなかったことへの悲しみや怒りであると理解できるかもしれません。
書くこと自体が辛く感じた場合は、無理に最後まで進める必要はありません。書けるところまで書いて中断し、心が落ち着いてから改めて取り組む、あるいは別の日に挑戦するなど、ご自身のペースを大切にしてください。書いたものを読み返すことも、心の準備ができたときに行いましょう。
まとめ
「なぜ私が」と感じる怒りや悲しみは、自分ではコントロールできない出来事によって引き起こされることが多く、非常に厄介な感情です。しかし、紙に書き出すという物理的な作業を通して、感情や思考を視覚化し、整理することで、これらの感情と少し距離を置いて見つめることが可能になります。
今回ご紹介したワークは、理不尽な出来事そのものを変えるものではありませんが、その出来事に対するあなた自身の反応や受け止め方に変化をもたらす可能性があります。感情の背景にある自分の価値観や期待に気づくことは、自分自身をより深く理解し、今後の人生で同様の状況に直面した際に、より穏やかな対応をとるための土台となります。
もし、一人でこの感情と向き合うことが難しいと感じる場合や、感情があまりにも強く、日常生活に支障をきたしている場合は、専門家(カウンセラーや心理士など)に相談することも選択肢の一つとして考えてみてください。誰かのサポートを得ながら感情を整理することも、大切な自分をケアする方法です。
この記事で紹介したワークが、あなたの「なぜ私が」という感情を整理し、心の平穏を取り戻すための一助となれば幸いです。