心に重くのしかかる感情を紙に「置いてくる」ための書き出しワーク
心の中に重くのしかかるような感情を抱えているとき、どのようにそれと向き合えばよいか、途方に暮れてしまうことがあるかもしれません。特に、過去の出来事に対する許せない怒りや、大切な何かを失ったことによる深い悲しみは、長い間私たちの心に留まり続け、日々の生活に影を落とすことがあります。
そのような感情は、まるで重い荷物のように感じられ、常に一緒にいることの辛さを伴います。誰かに話すことが難しかったり、自分のペースでじっくり考えたいと思ったりする場合、一人で安全に取り組める方法があると心強いものです。
この記事では、心に重くのしかかる許せない感情や悲しみを、紙の上に書き出すことで「置いてくる」というアプローチをご紹介します。これは、感情と自分自身との間に心理的な距離を作り、客観的に眺めるための一つの方法です。特別な道具は必要ありません。紙とペンがあれば、今ここから始めることができます。
心に重くのしかかる感情を「紙に置いてくる」ワークの手順
このワークの目的は、心の中に留まっている感情を外に出し、形にすることで、それに対する自分の認識を変えたり、心理的な負担を軽減したりすることです。以下の手順で進めてみましょう。
準備
- 静かで落ち着ける場所を選びましょう。
- A4サイズ程度の紙を数枚と、書きやすいペンを用意してください。ノートでも構いません。
- ワークに取り組む時間は、少なくとも20分〜30分程度確保できると良いでしょう。
ステップ1:感情をそのまま書き出す
まず、今心に重くのしかかっている感情や、許せないと感じている出来事について、頭に浮かぶこと、心に感じること、思い出されることなどを、そのまま紙に書き出してみましょう。
誰に見せるわけでもありませんから、体裁を気にしたり、文章として整えたりする必要はありません。単語でも、箇条書きでも、文章でも、自由な形で書き進めてください。
- 何に対してその感情を抱いていますか?(人、出来事、自分自身など)
- その感情はどのようなものですか?(怒り、悲しみ、後悔、虚しさなど、具体的な言葉で表現してみてください)
- その出来事や感情に関連して、どんな思考が浮かびますか?
- 身体のどこかに感じる感覚はありますか?(胸が締め付けられる、胃が重いなど)
心の中にあるものを、フィルターをかけずに、可能な限り正直に吐き出すように書き出してみてください。途中で手が止まっても構いません。また書き始められそうな時に続きを書くか、新しい紙に移っても良いでしょう。
ステップ2:書き出した感情を「眺める」
一通り書き終えたら、ペンを置き、書き出したものを読んでみましょう。ここでは、書き出した内容に対して評価をしたり、批判したりする必要は全くありません。ただ、「これは自分が書いたものなのだな」と眺める感覚です。
まるで他人事のように、客観的に見てみることができれば、それが感情と自分との間に少し距離ができ始めたサインかもしれません。もし、読み返すのが辛く感じたら、無理に全てを読む必要はありません。一部分だけ眺めたり、少し時間をおいてから読み返したりしても良いでしょう。
ステップ3:その感情に「問いかける」
書き出した内容を眺めながら、その感情に対していくつかの問いかけをしてみましょう。これも、答えを出そうと気負う必要はありません。問いかけることで、感情の背景にあるものに気づくきっかけになることがあります。
例えば、以下のような問いかけが考えられます。
- この感情は、私に何を伝えようとしているのだろうか?
- この出来事から、私は何を学んだだろうか?
- もし、この感情が何かを必要としているとしたら、それは何だろうか?
- この感情を持つことで、私は自分自身のどんな側面に気づいただろうか?
問いかけに対する答えが思い浮かばなくても、ただ問いかけてみるだけで、感情との新しい関係性が生まれることがあります。思いついたことがあれば、余白に書き加えてみても良いでしょう。
ステップ4:感情を「紙に置いてくる」イメージを持つ
書き出したものが、心の中にある感情そのものであるとイメージしてみてください。そして、その紙を「心から離れた場所」にあるものとして捉え直してみましょう。
紙の上に書かれた言葉や思いは、もうあなたの心の中だけにあるものではなく、目の前の「紙」という物理的な場所に存在しています。
「この紙の上に、私の重い感情は置いてある」
このように意識することで、心の中にあった感情が、一時的にでも自分から切り離され、客観的に見ることができるようになります。感情が心から紙に移った様子を、頭の中でイメージしてみましょう。
ステップ5:ワークを終える
感情を紙に置いてきたら、ワークに区切りをつけましょう。書き出した紙をどのように扱うかは、あなたの自由です。後でもう一度見返したい場合は大切に保管しても良いですし、感情を手放す意味で、安全な方法で処分(破る、燃やすなど)することを考えても良いでしょう。
ワークを終えたら、深呼吸を数回行い、今ここにいる自分自身に意識を戻しましょう。少しストレッチをしたり、温かい飲み物を飲んだりするのも良いかもしれません。
このワークの効果と取り組む上での心構え
この「紙に置いてくる」ワークに取り組むことで、以下のような効果が期待できます。
- 感情の客観視: 心の中にあると巨大に感じられる感情も、外に出してみることで、少し距離を置いて眺めることができるようになります。
- 感情への気づき: 自分の内側にある感情や思考、感覚に意識を向けることで、これまで気づかなかった側面に光が当たるかもしれません。
- 心理的な負担の軽減: 感情を外に出すことで、心の中が整理され、一時的にでも軽さを感じられることがあります。
ただし、このワークは感情を完全に消し去る魔法ではありません。感情は人間にとって自然なものであり、それ自体が悪いものではないからです。このワークは、感情に圧倒されそうになったとき、一時的にでも感情との健康的な距離を作り、自分自身の状態を整えるための一つの手段と考えてください。
取り組む上での心構えとして、以下の点を意識してみてください。
- 完璧を目指さない: 上手に書こう、全てを出し切ろう、と気負う必要はありません。書ける範囲で、その時のありのままで十分です。
- 感情の波を受け入れる: ワーク中に感情が強まることもあるかもしれません。それは自然な反応です。感情を無理に抑え込まず、安全な場所で感じていることを許可してあげてください。
- 継続すること: 一度で劇的な変化を感じなくても、繰り返し取り組むことで、少しずつ感情との向き合い方が変わっていくことがあります。
- 自分を責めない: ワークを通じて、自分の感情や過去の出来事に対して自己批判的な気持ちになることがあるかもしれません。しかし、あなたは今、自分自身の感情と向き合おうとしています。その勇気ある行動をしている自分自身をどうか責めないでください。
ワークを終えて
心に重くのしかかる感情を紙に「置いてくる」ワークは、一人で静かに自分の内側と向き合うための優しい方法です。紙の上に感情を書き出す行為は、物理的に感情を自分から切り離す象徴的な行動となります。
このワークが、あなたの心に少しでも安らぎをもたらし、感情の重さから解放されるための一歩となることを願っています。感情と向き合う旅は、時に辛く感じることもあるかもしれませんが、自分自身の内側を理解し、より健やかな心を育んでいくための大切なプロセスです。
もし、一人で感情に向き合うことが非常に困難である場合や、感情によって日常生活に支障が出ている場合は、専門家(心理士やカウンセラーなど)のサポートを求めることも大切な選択肢です。ご自身の心と体を大切にしながら、無理のない範囲で取り組んでみてください。