自分自身への許せない怒りや後悔と向き合うための紙での書き出しワーク
自分自身への怒りや後悔に向き合うということ
生きていく中で、私たちは過去の自分の言動や選択に対して、怒りや後悔の感情を抱くことがあります。「あの時、なぜあんなことをしてしまったのだろう」「もっと違うやり方があったのではないか」という思いは、自分自身に向けられる「許せない感情」として、心の中に残り続けることがあります。
このような感情は、誰かに話すのが難しいと感じたり、一人で抱え込んでしまいがちです。しかし、これらの感情から目を背けるのではなく、しっかりと向き合い、整理することで、心の負担を減らし、前に進むための大切な一歩を踏み出すことができます。
この記事では、自分自身への怒りや後悔といった感情に、ご自身のペースで安心して向き合える、紙での書き出しワークをご紹介します。特別な準備は必要ありません。紙と筆記用具があれば、すぐに取り組むことができます。
なぜ自分自身への怒りや後悔を感じるのか
自分自身に怒りや後悔を感じる背景には、様々な要因があります。例えば、当時の自分が持っていた知識や経験の不足、感情的な衝動、あるいは周囲の状況などが考えられます。しかし、多くの場合、私たちは当時の最善を尽くしていたはずです。
それでも感情が残るのは、現在の自分が、過去の自分に対して「こうあるべきだった」という期待や基準を持っているからです。その期待や基準と、過去の自分の行動との間にギャップがあるとき、怒りや後悔といった感情が生まれます。
このワークは、過去の自分を責めるためではなく、当時の自分を理解し、現在の自分がその感情をどのように受け止め、これからどう生きていきたいのかを探るためのものです。
紙での書き出しワークに取り組む準備
このワークに必要なのは、ノートやコピー用紙などの紙と、ペンや鉛筆などの筆記用具だけです。静かで落ち着ける場所を選び、時間を確保してから取り組むことをお勧めします。
デジタル機器が苦手な方でも、紙に書き出す作業は抵抗なく始められるでしょう。ご自身のペースで、感じるままに言葉を紡ぎ出してください。
自分自身への怒りや後悔に向き合うための書き出しワーク
このワークは3つのステップで構成されています。それぞれのステップで、紙に書かれた質問や指示に沿って、心に浮かぶことを素直に書き出していきます。
ステップ1:怒りや後悔を感じる出来事と、その時の自分について書き出す
まず、あなたが自分自身に対して最も強く怒りや後悔を感じる出来事を一つ選びます。そして、その出来事について、以下の問いに答える形で自由に書き出してください。箇条書きでも文章でも構いません。
- どのような出来事でしたか? 具体的に書いてみましょう。
- その出来事があったのは、いつ頃のことですか?
- その時のあなたは、何歳くらいでしたか?
- その時、あなたはどのような状況にいましたか? どのような考えを持っていましたか? どのような感情を感じていましたか?
- あなたは、その時の自分自身のどのような言動や選択に対して、怒りや後悔を感じていますか? 具体的に書いてみましょう。
- その時のあなたの行動の背景には、どのような理由があったと思いますか? (例:知識がなかった、焦っていた、周りに流された、精一杯だったなど)
ここでは、正しい答えを探す必要はありません。ただ、心に浮かんでくること、記憶に残っていることをそのまま紙の上に置いていくような気持ちで書き出してみてください。
ステップ2:当時の自分に寄り添う言葉をかける
ステップ1で書き出した当時の自分は、あなた自身です。今のあなたは、その過去の自分に対して、どのような言葉をかけてあげたいでしょうか。責めるのではなく、優しく、労うような言葉を探してみましょう。
紙の新しいページに、以下の問いに対する答えを書き出してください。
- 当時の自分は、その状況で一生懸命でしたか?
- もし、その時の自分に声をかけることができるとしたら、どのような言葉をかけてあげたいですか?
- 当時の自分が感じていたであろう感情(不安、迷い、孤独など)に対して、今のあなたはどのように寄り添ってあげられますか?
- 当時の自分の行動は、あなたにとってどのような意味を持っていますか? そこから何を学びましたか?
当時の自分を「もう一人の大切な存在」として捉え、共感する言葉を書き出すことで、自分自身への厳しさが和らぎ、少しずつ許容できるようになることがあります。
ステップ3:その経験から学び、これからどうしたいかを書き出す
過去の出来事から学びを得て、これからの自分に活かす視点を持つことは、感情の整理につながります。最後に、以下の問いについて考えて書き出してみましょう。
- ステップ1とステップ2を通して、あなたは過去の出来事について、そして当時の自分自身について、どのような新しい気づきを得ましたか?
- その出来事を通して、あなたはどのようなことを学びましたか?
- これから似たような状況になった場合、過去の経験を踏まえて、どのように行動したいと思いますか?
- この経験を経て、あなたは自分自身のどのような点を大切にしていきたいと思いますか?
過去を変えることはできませんが、過去の経験から学びを得て、未来の自分の行動や考え方を変えることは可能です。このステップは、過去の出来事を「失敗」として終わらせるのではなく、「学び」や「成長の機会」として捉え直すための大切な作業です。
ワークに取り組む上でのポイント
- 正直に書く: 誰に見せるわけでもありません。心に浮かぶ言葉や感情を正直に書き出しましょう。綺麗に書こう、正しく書こうと思わないでください。
- ** judgement せずに書く:** 自分の感情や考えに対して、「良い」「悪い」と判断せずに、ただ書き出します。
- スペースを作る: ワークに取り組む際は、十分な時間を確保し、途中で中断されないような環境を選びましょう。
- 感情の波に注意: ワーク中に感情が強く揺さぶられることがあります。もし辛くなったら、無理せず休憩するか、ワークを中断しても構いません。安全な場所で、深呼吸をするなどして気持ちを落ち着かせましょう。
- 継続する: 一度のワークですべてが解決するわけではありません。繰り返し取り組むことで、少しずつ感情が整理されていくのを感じられるでしょう。
ワークを通して期待できる効果
この書き出しワークに取り組むことで、以下のような効果が期待できます。
- 感情の可視化と整理: 頭の中でぐるぐる考えているだけでは掴みきれない感情や思考が、紙に書き出すことで目に見える形になり、整理しやすくなります。
- 自己理解の深化: なぜ自分自身に怒りや後悔を感じるのか、その背景にある自分の価値観や考え方に気づくことができます。
- 自己受容の促進: 過去の自分に寄り添う言葉をかけることで、自分自身への厳しさが和らぎ、ありのままの自分を受け入れやすくなります。
- 前向きな一歩: 過去の経験から学びを得て、これからどうしたいかを考えることで、未来に向けた希望や方向性を見出す手助けとなります。
終わりに
自分自身への怒りや後悔は、向き合うのが難しい感情かもしれません。しかし、それはあなたが「もっとこうありたかった」という、より良い自分を目指す気持ちの表れでもあります。
紙に書き出すという穏やかな方法で、ご自身のペースでこれらの感情と向き合い、心の内に光を当てることは、ご自身の心を癒し、強くしていくプロセスです。
この記事でご紹介したワークが、あなたがご自身の感情に優しく寄り添い、心の平穏を取り戻すための一助となれば幸いです。
参考資料
- 感情焦点化療法(EFT)
- 認知行動療法(CBT)における自動思考やスキーマへの働きかけ
- ジャーナリングの効果に関する心理学的研究