許せない感情によって傷ついた自己評価を癒やすための紙での書き出しワーク
複雑な感情、特に過去の出来事に対する許せない怒りや悲しみは、心の奥深くに残り、知らず知らずのうちに私たちの自己評価に影響を与えていることがあります。自分自身を否定的に見てしまったり、自信が持てなくなったりする背景に、こうした感情が潜んでいるケースは少なくありません。
誰かに相談することに抵抗がある場合や、自分のペースでじっくりと感情と向き合いたいと感じている方にとって、紙に書き出すワークは有効な手段の一つです。この方法であれば、他者の目を気にすることなく、安心して自身の内面を探ることができます。
この記事では、許せない感情が自己評価に与える影響に光を当て、傷ついた自己評価を癒やすための一歩として取り組める、具体的な紙での書き出しワークをご紹介します。
許せない感情が自己評価に与える影響
過去の出来事に対する許せない怒りや悲しみは、「なぜ自分だけがこんな目に」「あの時、違う選択をしていれば」「自分にはどうすることもできなかった」といった、自分自身への不甲斐なさや無力感、あるいは自責の念につながることがあります。
こうした感情を抱え続けると、「自分は価値がない人間だ」「どうせうまくいかない」「自分には幸せになる資格がない」といった否定的な自己認識が強まってしまうことがあります。これが、自己評価の低下です。自己評価が低いと、新しいことに挑戦する意欲が失われたり、人間関係で引け目を感じたりと、日々の生活にも影響が出てくる可能性があります。
しかし、これらの感情や自己認識は、あくまで特定の出来事や感情によって引き起こされたものであり、あなたの人間性や価値そのものを決定づけるものではありません。書き出しワークを通して、感情と自己評価の関連性に気づき、それらを整理することが、回復への大切な一歩となります。
ワークの目的と概要
このワークは、許せない感情がどのようにあなたの自己評価に影響しているのかを探り、その影響から距離を置き、傷ついた自己を癒やすための一歩を踏み出すことを目的としています。
紙と筆記用具があれば、いつでもどこでも、ご自身のペースで取り組むことができます。特別なスキルは必要ありません。大切なのは、ご自身の心に正直になることです。
用意するもの
- お好きなノートや紙
- 書き慣れた筆記用具(ペン、鉛筆など)
- 安心して落ち着いて取り組める時間と場所
ワークの手順
以下のステップで、ご自身の感情と自己評価について書き出してみましょう。
ステップ1:感情の特定と描写
まず、あなたが今、許せないと感じている具体的な出来事や状況、それに対して抱いている感情(怒り、悲しみ、失望、後悔など)を書き出してください。
- 書き出し例:
- 「許せない出来事/状況:〇〇さんに言われた一言が忘れられない」
- 「感じている感情:強い怒りと、自分への情けなさ」
- 「その時の状況:人前で、期待していたことと全く違うことを言われた」
- 「その出来事から抱いている感情:怒りが収まらない、悲しい、屈辱的だ」
できるだけ具体的に、当時の状況や、今感じている感情を言葉にしてみてください。感情に名前をつけるだけでも、少し客観的に捉えられることがあります。
ステップ2:感情が引き起こす自己評価への影響を書き出す
ステップ1で特定した感情を抱くとき、自分自身についてどのように感じたり、考えたりしているかを書き出します。その感情が、あなたの自己評価や自分への信頼感にどのような影響を与えているかを探ります。
- 書き出し例:
- 「あの出来事以来、自分は人前で話すのが怖いと感じるようになった。また馬鹿にされるのではないかと思ってしまう。」
- 「〇〇さんに言われたことで、『自分はダメな人間だ』という気持ちが強くなった。」
- 「なぜ反論できなかったのだろう、と自分を責めてしまう。意志の弱い人間だと感じている。」
- 「この感情があるせいで、何もかもがうまくいかない気がして、自信が持てない。」
ここで大切なのは、頭に浮かんでくる思考や感覚を、良い悪いの判断をせずにそのまま書き出すことです。
ステップ3:感情と自己評価の関係性を観察する
書き出した感情と、それによって引き起こされている自己評価や否定的な考えを眺めてみます。
- 書き出し例:
- 「私の『情けなさ』という感情が、『自分は意志が弱い』という考えにつながっているようだ。」
- 「『怒り』が、『人前で馬鹿にされるかもしれない』という恐れを引き起こし、行動を制限していることに気づいた。」
- 「特定の出来事に対する『悲しみ』が、『自分には価値がない』という、出来事とは直接関係ないはずの考えにつながっている。」
ここで、「感情」と「それによって生まれる(歪められた可能性のある)自己評価」は、必ずしも事実とは限らないという視点を持つことが重要です。感情は強い力を持っていますが、感情が自己評価を一時的に曇らせているだけかもしれません。
ステップ4:傷ついた自己への肯定的な視点を探す
傷ついている自分自身に対して、もし親しい友人や大切な人が同じ状況だったら、どのような言葉をかけますか。また、感情に曇らされていない、あなた自身の肯定的な側面や、これまで乗り越えてきた経験、大切にしている価値観などを思い出して書き出します。
- 書き出し例:
- 「もし友人が同じように言われたら、『あなたのせいじゃないよ、相手がおかしかったんだよ』と伝えるだろう。」
- 「私は、これまでも大変な状況を乗り越えてきた強さを持っている。」
- 「あの出来事とは関係なく、私は〇〇な良いところを持っている。」
- 「私は△△ということを大切に生きている。あの出来事があっても、それは変わらない。」
自己評価が低下しているときは、自分の良い点が見えにくくなります。意図的に、感情に影響されていない自分自身の肯定的な側面に光を当ててみましょう。
ステップ5:回復へ向けた小さな一歩を計画する
このワークを通して気づいたこと、感じたことを踏まえ、傷ついた自己評価を少しでも癒やすために、今日からできる小さな一歩や、考え方の変化を計画して書き出します。
- 書き出し例:
- 「『自分はダメだ』と感じたときは、『これは感情が引き起こしている考えだ』と一旦立ち止まって考えてみる。」
- 「自分を責めるのではなく、『あの時は精一杯だった』と自分に優しく声をかける練習をする。」
- 「気分転換に、好きな音楽を聴く時間を作る。」
- 「小さなことでも、できたことを褒めるノートをつける。」
完璧を目指す必要はありません。ご自身にとって無理なく、心地よく感じられる小さな一歩を見つけてください。
ワークに取り組む上でのポイントと注意点
- 正直に書く: 誰かに見せるものではありません。ご自身の感情や思考を正直に書き出しましょう。
- 自分を批判しない: どんな感情や思考が出てきても、「そう感じているんだな」とそのまま受け止める姿勢が大切です。自分自身を責めないでください。
- 無理はしない: 感情が強く揺さぶられすぎるときは、中断しても構いません。深呼吸をする、休憩するなど、ご自身の心身の安全を最優先にしてください。
- 継続すること: 一度で全てが解決するわけではありません。定期的にこのワークに取り組むことで、ご自身の感情や自己評価の変化に気づけるようになります。
このワークから期待できる効果
このワークに取り組むことで、以下のような効果が期待できます。
- 許せない感情と、それが自己評価に与えている影響を具体的に理解できる。
- 感情と自分自身(自己評価)を切り離して捉える練習ができる。
- 否定的な自己評価が、特定の感情に紐づいていることに気づき、客観視できるようになる。
- 傷ついた自分自身に対して、少しずつ肯定的な視点を持てるようになる。
- 自己評価の回復に向けた具体的な行動の糸口を見つけられる。
まとめ
許せない感情を抱え続けることは、知らず知らずのうちに私たちの自己評価を傷つけてしまうことがあります。しかし、その感情に気づき、それが自己評価にどう影響しているのかを理解することで、回復への道は開かれます。
今回ご紹介した書き出しワークは、紙と筆記用具さえあれば、いつでもご自身のペースで取り組むことができます。ご自身の心に寄り添いながら、正直に、そして優しく、内面を探ってみてください。
この一歩が、あなたがご自身の感情を整理し、傷ついた自己評価を癒やし、より穏やかな気持ちで日々を過ごすための助けとなれば幸いです。