感情が引き起こす「いつもの行動」に気づく紙での書き出しワーク
許せない感情が、気づかぬうちにあなたの行動を左右していませんか
過去の出来事や特定の誰かに対して抱える「許せない」という感情や、それに伴う悲しみ、後悔といった複雑な思いは、たとえ時間が経っても心の中に残り続けることがあります。これらの感情は、私たちの意識しないところで、日々の考え方や、さらには具体的な行動パターンに影響を与えていることがあります。
例えば、「あの時、もっと違う行動をとっていればよかった」という後悔が、新しい挑戦をためらわせるブレーキになっているかもしれません。「なぜ私だけがこんな目に」という怒りが、他者との間に壁を作る原因になっている可能性もあります。
こうした感情と行動の間のつながりに気づくことは、自分自身をより深く理解し、これから先の人生でより望ましい選択をしていくための大切な一歩となります。
この記事では、あなたが抱える許せない感情が、現在のどのような行動パターンに結びついているのかを探り、それに気づくための具体的な書き出しワークをご紹介します。紙とペンがあれば、いつでもご自身のペースで取り組むことができます。
このワークで目指すこと
この書き出しワークの目的は、あなたが抱える「許せない」といった感情と、日々の「いつもの行動」や「繰り返してしまうパターン」との間に隠された関連性を見つけ出すことです。感情がどのようにあなたの行動に影響を与えているかに気づくことで、そのパターンを変えるための糸口を見つけることを目指します。
このワークを通じて得られる気づきは、自己理解を深め、感情に振り回されることなく、より主体的に行動を選べるようになる助けとなるでしょう。
ワークを始める前の準備
- 紙と筆記用具: ノートやルーズリーフ、お好きなペンを用意してください。紙であればどのようなものでも構いません。
- 静かで落ち着ける場所: 誰にも邪魔されず、ご自身の心と向き合える時間と場所を確保しましょう。
- リラックスできる飲み物(任意): 温かいお茶などを用意すると、よりリラックスして取り組めるかもしれません。
このワークに取り組む上で大切なのは、「こう書かなければならない」という正解を求めないことです。心に浮かんだこと、正直な気持ちをそのまま書き出してみましょう。書き出すこと自体が、感情や思考を整理する助けとなります。
紙に書き出すワーク:感情と行動のつながりを探る
以下のステップで、紙に書き出してみましょう。ノートを広げ、それぞれのステップの内容を書き込んでいきます。一つの出来事や感情について深く掘り下げたい場合は、何度か繰り返して取り組むこともできます。
ステップ1:最近気になった「いつもの行動」や「繰り返してしまうパターン」を書き出す
まずは、あなたが最近「なぜかいつもこうしてしまう」「また同じパターンだ」と感じる行動や反応を具体的に書き出してみてください。大小問わず、どんなことでも構いません。
- 例:
- 人から褒められても、素直に受け取らず謙遜しすぎてしまう。
- トラブルがあると、まず自分のせいだと考えてしまう。
- 断るのが苦手で、頼まれごとを引き受けすぎてしまう。
- 特定の話題になると、すぐに感情的になってしまう。
- 新しい環境に馴染むのに時間がかかり、自分から話しかけられない。
書き出す際は、できるだけ具体的な状況や、その時の自分の内側の感覚(どんな気持ちがするか、身体がどう反応するかなど)も添えてみましょう。
例: | 気になる行動・パターン | 具体的な状況、その時の感覚 | | :--------------------------------------------------- | :----------------------------------------------------------------------------------------- | | 褒められても素直に受け取れない | 仕事で成果を上げたとき。「いやいや、大したことないです」とすぐに口にしてしまう。内心落ち着かない。 | | トラブルがあると自分のせいだと考える | プロジェクトの進行が遅れたとき。チームの問題なのに、「自分の確認不足だ」とまず考えて落ち込む。 | | 断るのが苦手で頼まれごとを引き受けすぎる | 忙しい時に同僚から仕事を頼まれた。本当は無理なのに「大丈夫です」と言ってしまう。後で疲れて後悔する。 | | 特定の話題(例:親とのこと)になると感情的になる | 友人と親の話になったとき。声が大きくなり、一方的に話してしまう。後で少し自己嫌悪になる。 |
ステップ2:その行動やパターンをとる直前に感じた感情を探る
ステップ1で書き出したそれぞれの行動やパターンをとる「直前」や「その最中」に、あなたがどのような感情を抱いていたかを思い出して書き出してみましょう。
- 例:
- 褒められて謙遜する時 → 恥ずかしさ、戸惑い、自信のなさ、「私なんかが認められるはずがない」という思い
- 自分のせいだと考える時 → 不安、恐れ、責任感(過剰な)、自己否定
- 断れない時 → 罪悪感、相手に嫌われたくないという恐れ、プレッシャー
- 感情的になる時 → 怒り、悲しみ、過去の傷つき、理解されないことへの苛立ち
- 話しかけられない時 → 緊張、不安、拒絶されることへの恐れ、「どう思われるだろう」という心配
感情は一つだけでなく、いくつかが同時に存在することもあります。心に浮かぶ感情を正直に書き出してみてください。
ステップ3:ステップ2の感情が、過去のどのような「許せない感情」と関連しているかを探る
ステップ2で書き出した感情や感覚は、過去の「許せない」と感じている出来事や、それに伴う感情と繋がっている可能性があります。過去の記憶や感情を振り返り、関連性がありそうなものを見つけて書き出してみましょう。
- 例:
- 「褒められても素直に受け取れない」「自信のなさ」→ 子供の頃、頑張ってもなかなか認められなかった経験、あるいは逆に過度に期待されてプレッシャーを感じた経験への「許せない」気持ちや悲しみ?
- 「自分のせいだと考える」「自己否定」→ 過去に何か失敗をして激しく責められた経験、あるいは自分自身を許せないと思っていることへの関連?
- 「断れない」「嫌われたくない恐れ」→ 過去に断ったことで人間関係が悪化した経験、あるいは見捨てられることへの強い不安や、それに関する「許せない」出来事?
- 「特定の話題で感情的になる」→ その話題に関わる過去の出来事や人物に対する、今も癒えていない怒りや悲しみ、あるいは裏切りへの「許せない」思い?
- 「話しかけられない」「拒絶への恐れ」→ 過去に友人関係で傷ついた経験や、集団の中で孤立した経験に対する「許せない」気持ちや悲しみ?
ここでは、論理的な説明が見つからなくても構いません。「なんとなく、あの時のことと似ている気がする」「この感情は、あの時の悲しみと繋がっているかもしれない」といった直感も大切にしてください。具体的な出来事が思い浮かばなくても、「過去の(誰か)への怒り」「あの時の自分の不甲斐なさへの後悔」など、感情の対象や種類だけでも書き出してみましょう。
例: | 直前の感情や感覚 | 関連がありそうな過去の許せない感情や出来事 | | :--------------------------------------------------- | :--------------------------------------------------------------------------------------------------------- | | 褒められて謙遜する時 → 恥ずかしさ、自信のなさ | 小学校の時、絵のコンクールで賞をとったが、家族に「たまたまだよ」と言われたこと。/頑張りを見てもらえなかったことへの悲しみ? | | 自分のせいだと考える時 → 不安、自己否定 | 高校受験に失敗した時、親に「だから言ったのに」と言われたこと。/自分を責め続けたことへの後悔? | | 断れない時 → 罪悪感、嫌われたくない恐れ | 学生時代、グループ活動で一度意見を言ったら無視されたこと。/受け入れてもらえなかったことへの怒り? | | 特定の話題(親とのこと)で感情的になる → 怒り、悲しみ | 子供の頃、親に期待を裏切られたと感じた出来事。/理解してもらえなかったことへの許せない気持ちや悲しみ。 | | 話しかけられない時 → 緊張、不安、拒絶への恐れ | 転校したクラスで、うまく馴染めなかったこと。/孤立したことへの寂しさや、受け入れてくれなかった環境への怒り? |
ステップ4:書き出した内容を見返して、気づきをまとめる
ステップ1からステップ3で書き出した内容をじっくりと見返してみましょう。
- あなた自身の「いつもの行動」や「繰り返してしまうパターン」の根底に、過去のどのような感情や出来事が影響している可能性があるか、何か気づきはありましたか?
- 今のあなたの行動は、過去の感情を守るために無意識にとっている防御反応なのでしょうか?
- そのパターンを続けることで、あなたは今、何を得ている、あるいは何を失っていると感じますか?
ノートに、あなたが得た気づきを言葉にして書き出してみてください。「〇〇という行動は、□□という過去の感情と繋がっているのかもしれない」「私は△△という感情から、無意識のうちに自分を守ろうとしているようだ」「このパターンを続けていると、××な機会を逃してしまうかもしれない」など、素直な思いを書き留めましょう。
ワークに取り組む上でのポイントと注意点
- 正解はありません: 書いた内容に良い悪いはありません。ご自身の内側にあるものをそのまま表現することが大切です。
- 感情に圧倒されそうになったら休憩を: 過去の感情に触れることで、辛い気持ちが込み上げてくることもあるかもしれません。感情が強く揺さぶられすぎると感じたら、無理せず一度休憩しましょう。深呼吸をしたり、温かい飲み物を飲んだりして、落ち着いてから再開してください。
- 自己批判は手放す: このワークは、自分を責めるためのものではありません。過去の自分や、今の行動パターンを否定的に捉えるのではなく、「ああ、こういうことだったのかもしれないな」と、ご自身を理解するための時間としてください。
- 一度で全てが分からなくても大丈夫: 一回のワークで全ての関連性が見えるとは限りません。時間をおいて繰り返し取り組んだり、別の切り口から考えてみたりすることで、新たな気づきが得られることもあります。
このワークから得られる効果と次のステップ
この書き出しワークを通じて、あなたは自身の感情と行動の間の見えない繋がりを明らかにし始めることができます。感情に引きずられるようにしてとっていた「いつもの行動」が、実は過去の出来事や感情から来ていることに気づくかもしれません。
この気づきは、あなたの行動を変えるための大切な第一歩です。自分の行動が感情によってどのように左右されているかが分かれば、次に同じような状況になった時に、「これは過去の感情が影響しているかもしれない。ここでは別の選択をしてみよう」と、意識的に異なる行動を選ぶ可能性が生まれます。
すぐに全ての行動パターンが変わるわけではありません。しかし、このワークで得られた自己理解は、あなたが感情に振り回されるのではなく、感情を理解し、それを踏まえた上で自身の行動を主体的に選択していく力を育むでしょう。
まとめ
過去の許せない感情は、時として現在の私たちの行動や反応に影響を与え、生きづらさの原因となることがあります。しかし、その影響に気づき、理解することで、私たちは感情の奴隷になるのではなく、感情と健全に向き合いながら、より自由な選択ができるようになります。
この記事でご紹介した書き出しワークは、あなたの内側に眠る感情と行動の関連性を明らかにするための実践的なツールです。紙とペンという身近な道具を使って、ご自身の心と丁寧に向き合う時間を持ってみてください。
このワークが、あなたが自身の感情を理解し、より心地よい生き方を見つけていくための助けとなれば幸いです。焦らず、ご自身のペースで、一歩ずつ進んでいきましょう。