許せない感情を「そのまま」受け止める紙での書き出しワーク
感情に「良い」「悪い」のレッテルを貼っていませんか
私たちの心には、時に激しい怒りや深い悲しみといった、許せないと感じるような感情が湧き上がることがあります。これらの感情はしばしば、私たち自身や他人に対する罪悪感、後悔、あるいは混乱といった複雑な思いと結びついています。
私たちは、こうしたネガティブに感じられる感情を「悪いもの」と捉えがちです。「こんなことを感じるべきではない」「もっとポジティブでいなければ」と、感情そのものを否定したり、抑え込もうとしたりすることがあります。しかし、感情に善悪の判断を下すことは、かえってその感情を頑なにし、心の中で居座らせてしまうことにもつながりかねません。
感情は、私たちの内側で起こっている出来事や、満たされていないニーズを知らせてくれる大切なサインでもあります。感情を「良い」「悪い」と判断せずに、ただ「そこに感情がある」と受け止めることは、自分自身の心と向き合う上で非常に重要な一歩となります。
このワークでは、許せないと感じるような感情を、善悪の判断をせずに、紙にそのまま書き出していく方法をご紹介します。紙とペンがあれば、誰でも、自分のペースで取り組むことができます。
感情を「そのまま」受け止めることの難しさと大切さ
なぜ、感情を「そのまま」受け止めることが難しいのでしょうか。それは、私たちは幼い頃から、「泣いてはいけない」「怒るべきではない」といった形で、感情の特定の表現を抑制するように教わったり、特定の感情を抱いた時に不快な経験をしたりすることがあるためです。また、「ポジティブであるべき」という社会的な期待も影響しているかもしれません。
しかし、感情は自然に湧き上がってくるものです。それを無理に抑え込もうとすると、心身に負担がかかります。感情を「そのまま」受け止めることは、その感情に同意することや、その感情に基づいて衝動的に行動することとは異なります。ただ、「今、自分はこのような感情を感じているのだな」と認識し、それを否定しないということです。
感情をそのまま受け止めることができるようになると、感情に振り回されにくくなります。感情と自分との間に適度な距離が生まれ、感情の波にのまれそうになった時でも、冷静に状況を見つめたり、自分にとってより良い選択をしたりすることが可能になります。また、感情の奥にある本当の自分自身の願いやニーズに気づきやすくなります。
ワーク:感情を「ただ書き出す」エクササイズ
このワークは、今あなたが感じている感情を、何も判断したり修正したりせずに、ただ紙に書き出していくというシンプルなものです。特別な文章力や表現力は必要ありません。頭に浮かんだ言葉やイメージ、体の感覚など、心の動きをそのまま記録していきます。
【準備するもの】
- 紙(ノートやルーズリーフなど、何でも構いません)
- ペンまたは鉛筆
【手順】
- 静かで落ち着ける場所を選びます。 一人で集中できる時間と空間を確保しましょう。
- 紙とペンを用意し、リラックスできる姿勢で座ります。 肩の力を抜き、深く息を数回吐き出してみましょう。
- タイトルの代わりに、今日の日付を紙の最初に書きます。
- 今、心の中で感じていること、頭に浮かんでいることを、そのまま書き始めます。 「何から書こうかな」「うまく書けないな」といった思考も、そのまま書き出して構いません。
- 湧き上がる感情(怒り、悲しみ、不安、イライラ、モヤモヤなど)、それに伴う体の感覚(胸が締め付けられる、胃が重い、肩がこるなど)、関連する思考や記憶の断片を、検閲せずに書き出します。 例:「あの出来事を思い出すと、まだ胸が苦しい」「〇〇さんの言葉が頭から離れない」「自分が情けないと感じる」「怒りが込み上げてくる、この怒りは良くないものだと思ってしまう」「ただただ悲しい」
- 文章のまとまりや表現の適切さにこだわらず、内側から自然に出てくる言葉を追いかけるように書き続けます。 スペルミスや誤字脱字も気にしません。
- 手が止まったら、再び心に意識を向け、次に浮かんだことをまた書き始めます。 何も浮かばない場合は、「何も書くことが思いつかない」とそのまま書いても構いません。
- 時間の長さや書く量に特定の目標を設ける必要はありません。 気が済むまで、あるいは区切りが良いと感じるところで終わりにします。例えば、10分や15分など、時間を決めて取り組むのも良い方法です。
- 書き終えた後、すぐに読み返す必要はありません。 書き出したものをどうするかは自由です。後で読み返しても良いですし、誰にも見られない場所にしまっておいたり、破いて処分したりしても構いません。大切なのは、感情を外に出すプロセスそのものです。
【ワークに取り組む上でのポイントと心構え】
- 判断しない: 書いている内容に対して、「これは良い」「これは悪い」「こんなことを考えてはいけない」といった判断を下さないように意識しましょう。ただ、感情や思考を事実として書き留めます。
- 自由に書く: 誰かに見せるわけではありません。どんな言葉を使っても、どんな内容を書いても自由です。率直な気持ちを表現しましょう。
- 中断しても良い: ワーク中に感情が強くなりすぎたり、つらくなったりした場合は、無理せず中断してください。安全な場所で、深呼吸をするなどして心を落ち着けましょう。
- 継続は力: 一度で劇的な変化を感じなくても構いません。定期的に(例えば週に一度など)続けることで、徐々に効果を感じられることがあります。
- 書くことに意味がある: 完璧な文章を書くことではなく、内側にあるものを外に出すプロセス自体に意味があります。
期待できる効果と注意点
この「ただ書き出す」エクササイズに取り組むことで、以下のような効果が期待できます。
- 感情の客観視: 紙に書き出すことで、頭の中や心の中で渦巻いていた感情や思考を外に取り出し、少し距離を置いて眺めることができるようになります。感情にのめり込まずに済む助けとなります。
- カタルシス(感情の浄化): 感情を言葉にして外に出すことで、心の詰まりが解消され、すっきりとした感覚を得られることがあります。
- 自己理解の促進: 繰り返し書き出すことで、自分がどのような状況でどのような感情を抱きやすいのか、どのような思考パターンを持っているのかなど、自分自身への理解が深まります。感情の奥にある、本当に大切にしている価値観やニーズに気づくきっかけにもなります。
- 感情に振り回されにくくなる: 感情を否定せず受け入れる練習をすることで、感情の波に必要以上に翻弄されることが減り、穏やかな心を保ちやすくなります。
ただし、このワークはあくまで自己探求と感情整理の一助です。非常に強い感情や、過去のトラウマに関連する感情を扱う際には、書き出すことによって感情が不安定になる可能性もあります。
- 書き出すことが非常につらく感じる場合
- ワークの後、数日にわたって気分が落ち込んだり、日常生活に支障が出たりする場合
このような場合は、無理に一人で抱え込まず、信頼できる家族や友人、あるいは心理の専門家(カウンセラーや精神科医など)に相談することも検討してください。あなたの安全と健康が最も重要です。
まとめ
許せない怒りや悲しみといった感情は、私たちの心に重くのしかかることがあります。これらの感情を「良い」「悪い」と判断せず、「そのまま」受け止めることは、感情と健全に向き合うための大切なステップです。
今回ご紹介した「感情をただ書き出す」エクササイズは、紙とペンさえあればいつでも始められる、シンプルながらも深い自己探求のツールです。判断を手放し、自由に感情を書き出す練習を続けることで、あなたは自身の感情との新しい関係性を築き、心の平穏を取り戻していくことができるでしょう。
焦らず、ご自身のペースで、このワークに取り組んでみてください。あなたの心が少しでも軽くなることを願っています。